赤は、昔から血や火と関連づけてとらえられ、
強い生命力や激しい感情、愛や勇気、情熱や
怒りを象徴する色と考えてきました。たくさ
んの色がある空間で人はまっ先に赤に注目す
るといわれ、赤ちゃんが最初に知覚する色と
言われます。生理的にも、心臓の鼓動を速め、
血圧を高め、男性ホルモンの分泌を促す働き
があることが知られています。ちなみに赤い
色は闘牛を興奮させているわけではなく、闘
牛士自身や観客を興奮させるのです。


橙は、心理的にはあまり重要な意味は持ちま
せんが、赤の情熱、黄色の明るさを兼ねそろ
えた色といえます。一方、茶は日本では古く
から粋な色とされ、身近に感じる色です。し
かし、アメリカでは野暮な色とされ、英語の
ブラウンには、うんざりする、意気消沈する
という意味があります。食べ物を連想させる
この色は、心理的には橙よりも重要な位置を
占め、飢えや精神的な意欲を表しています。


黄は、希望、幸福、健康、欲求を象徴する外
向的なイメージが強く、鮮やかで目を引くの
で欧米では広く使われてきました。アジアで
は各宗教の最高の色とされ、高貴な色とされ
ています。また、黄は子供が好む色であり、
本能のままに欲望の充足と庇護を無限に求め
ようとする依存と求愛の色です。子供のまま
でいたい、甘えていたい、可愛がってほしい
という心理を表しています。


緑は、人に調和やバランスを感じさせる特性
を持っています。誰の目にも美しく見え、気
分をリラックスさせます。緑の服やアクセサ
リーを身に付けていると、本人の気持ちが安
らぐだけでなく、それを見ている相手にも、
バランスをとろうとする心理が働くので、お
互いの関係が穏やかになります。


青は、クールな探究心や自立心とつながりや
すく、内省的な落ちついた精神の状態を生む
ようです。一方で、青二才など未熟者を形容
したり、マリッジブルーなど、憂鬱な気分を
表すマイナスの意味にも使われます。黄が子
供に好まれる色であるのに対し、青は大人に
好まれる色で、その傾向は男性の方が強いよ
うです。これは勤労生活の中で自制と服従を
余儀無くされる男性の宿命を表した色と考え
られますが、最近は女性の社会進出も目覚ま
しいので、青が好きな女性も増えていくかも
知れません。


紫は、欧米では高貴の色である反面、不安や
嫉妬といったネガティブなイメージをはらん
でいます。日本でも603年の冠位十二階で最
高位の色とされて以来、高貴な色とされまし
たが、近代では欧米の影響か、不安や狂気、
嫉妬、不幸と結びついて連想されます。子供
の絵に紫が多い場合、病気や怪我、そして死
の心理的影響が投影されていることが知られ
ていますが、これは立ち直ろうとする意欲の
表れです。紫はよくない色ではなく、心や体
が傷付いた時の癒しの色なのです。


白は、清純と無垢の象徴で、平和、純粋、清
浄といったイメージと結びついて、多くの場
合は神聖でめでたい色とされます。しかし同
時に、白は死者の死装束に用いられます。昔
の日本では、白鳥、白馬、白蛇など、白い動
物は神の遣いとして尊びましたが、白い手ぬ
ぐいやふとんは、忌むべき色として嫌われま
した。白は、汚れたくないあるいは汚したく
ないという心理の表現として、緊張感、警戒
心の象徴となります。また、汚れた、汚され
てしまったものをもとの白に戻したいという
心理の表現として、後悔、失敗感、喪失感の
象徴にもなります。一般に子供が描画におい
て白を使う時は、失敗を恐れるいじけた心理
を反映し、自身のない子、神経質な子、完全
癖タイプの子などがよく白を使います。


灰は、一般的にはあまりはっきりした象徴的
意味を持たず、明るくて白に近い灰は白に準
じ、暗くて黒に近い灰は黒に準ずるといえま
すが、灰色一般としては無を表します。絵に
おいても多くの場合脇役として重宝されます
が、灰が主役として使われる場合は、不安、
無気力、憂鬱といった心理に対応します。


黒は喪の色であり、死や暗闇のイメージが付
きまとっているものの、根底では越え難たか
ったり避け難たい絶対的な超越感に通じてい
ます。その厳かな感じが、白との組み合わせ
かた次第で、冠婚葬祭の慶弔いずれにも対応
するのでしょう。心理的には青がどちらかと
いえば自律的な感情の制御であるのに対して、
黒は不満を隠した感情の制御といえ、その根
底に恐怖を隠しています。